会社で培った技術やノウハウ、業務特有の情報、願客や取引先の情報などを持つ従業員が、ほかの同業会社に就職することは、会社側にとっても打撃になります。これを受け、大体の会社では、就業規則に競業行為の禁止の規定を置いています。
従業員が在職していれば、使用者の利益に反する競業行為の差し控えの義務がありますが、退職してからの離職先に関しては、憲法での「職業選択の自由」に触れてしまうので、制限することはできません。
労働契約や就業規則などに関連事項の特約を含めたとしても、労働者が在職中にかかわった企業秘密の程度や内容、労働者の地位、制限期間、制限対象となる職種範囲、場所的範囲、代償の有無などからみて適切性がなければ、その効力を失います。
すなわち、競業避止に反したことを事由として、退職金などの支給に制限を置くことは職業規則の定めにかかわらず、不許となる可能性が高いです。しかし、その退職金の支給の制限が妥当であると考えられるような重大背信性がある場合なら、制限が認められる可能性もあります。
この事例のように、退職後の競業避止に要する力は決して少なくありませんが、ルールとして就業規則に関連規定を置いて、従業員に誓約書を提出してもらうことで、一定の抑止の効果は出るかもしれません。