マイナンバーを記した源泉徴収票の提出義務者が個人番号関係事務実施者に当たります。源泉徴収票の提出義務者は従業員の給与を支払っている法人ですので、給与の支払方法により個人番号関係事務実施者が異なるということになります。
したがって、出向先が出向元に給与負担金を支出し、出向元が引き続いて従業員等に給与等を支払う場合は出向元が個人番号関係事務実施者に当たるのに対し、出向先が従業員等に給与等を支払う場合は出向先が個人番号関係事務実施者に当たります。また、出向元と出向先の各々が従業員等に給与等を支払う場合は、出向元と出向先が個人番号関係事務実施者であるといえます。
ちなみに、転籍の場合、従業員等に給与等を支払う転籍後の会社が、個人番号関係事務実施者に当たります。また、業務委託の場合において、業務委託者が業務委託先に業務委託費を支払い、業務委託先が従業員等に給与等を支払うときは、委託業務先が個人番号関係事務実施者です。
なお、他の法人に従業員が所属することになった場合、その法人がグループ子会社であるときにも、従業員よりマイナンバーを改めて取得しなければなりません。法人間におけるマイナンバーのやり取りは、マイナンバー法第19条によって定められた特定個人情報の提供の制限に反しますので、留意する必要があります。
個人情報保護委員会「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」の「第4-3-(2) 個人番号の提供の求めの制限、特定個人情報の提供制限」のうち、「2 特定個人情報の提供制限(番号法第19条) A「提供」の意義について」が参考になります。その内容は、おおむね次のとおりです。
「提供」とは、法的な人格を超える特定個人情報の移動を意味し、同一法人の内部等の法的な人格を超えない特定個人情報の移動は「提供」ではなく「利用」に該当し、利用制限(マイナンバー法第9条、第28条、第29条第3項、第32条)に従うこととなる。
なお、個人情報保護法では、個人データを特定の者との間で共同して利用する場合、第三者提供に該当しないとされている(個人情報保護法第23条第4項第3号)が、番号法では、個人情報保護法第23条第4項第3号の適用を除外している(マイナンバー法第29条第3項)ので、この場合も通常の「提供」に該当し、提供制限(同法第14条~第16条・第19条・第20条・第29条第3項)に従うこととなる。
※事業者甲におけるX部からY部へ特定個人情報が移動する場合、X部とY部は甲の内部の部署で独立した法的人格を有しないので、「提供」には該当しない。具体的には、営業部に所属する従業員等のマイナンバーが、営業部庶務課を通じ、給与所得の源泉徴収票を作成するために経理部に提出されたケースでは、「提供」ではなく、法令で認められた「利用」に該当する。
※事業者甲から事業者乙へ特定個人情報が移動する場合、「提供」に該当する。同じ系列の会社間等における特定個人情報の移動でも、別の法人であれば「提供」に該当し、提供制限に従うこととなるため注意を要する。具体的には、ある従業員等が甲から乙に出向又は転籍によって異動し、乙が給与支払者(給与所得の源泉徴収票の提出義務者)となったケースでは、甲・乙間で従業員等のマイナンバーを受け渡すことは認められておらず、乙は改めて本人よりマイナンバーの提供を受ける必要がある。
※同じ系列の会社間等において従業員等の個人情報を共有データベースで保管している場合に、従業員等が現在就業している会社のファイルにだけそのマイナンバーを登録し、他の会社がそのマイナンバーを参照できないようなシステムを採っているときには、共有データベースにマイナンバーを記録できると考えられる。
※上記の事例で、従業員等の出向に伴って、本人を介在させずに、共有データベース内で自動的にアクセス制限を解除すること等により出向元の会社のファイルから出向先の会社のファイルにマイナンバーを移動させることは、提供制限に抵触するため、注意を要する。
一方、共有データベースに記録されたマイナンバーを出向者本人の意思に基づく操作で出向先に移動させる方法を用いた場合には、本人が新たにマイナンバーを出向先に提供したものとみなすことが可能で、提供制限には抵触しないと考えられる。ただし、この場合、本人の意思に基づかない不適切なマイナンバーの提供がなされることを防ぐため、本人のアクセス及び識別につき安全管理措置を取らなければならない。
そして、本人確認に関しては、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律施行規則」(平成26年内閣府・総務省令第3号)第4条又は代理人が行う場合において同施行規則第10条に沿って手続の整備を行っておいたときには、本人確認に係る事務を効率的に実施することができると考えられる。