従業員の自己都合による退職には、辞職と合意退職があります。辞職は従業員側からの一方的な意思の表明による労働契約の解約を意味します。この場合、意思の表明が会社側に届いた時点で効力が発生しますので、撤回はできず、撤回には使用者からの承諾を得なければなりません。
その一方、合意退職は従業員からの解約の申し出に基づいて、労使双方からの合意によって労働契約が解約されます。従業員からの退職届の提出は、退職の戸の種類に該当するのかが曖昧となっていますが、過去の裁判例では「株式会社大通事件‐1998.7.17‐大阪地裁:使用者の態度如何にかかわらず確定的に雇用契約を終了させる旨の意思が客観的に明らかな場合に限り、辞職の意思表示と解すべきであって、そうでない場合には、雇用契約の合意解約の申込みと解すべきである」となっています。
この事例の場合、合意退職に当てはまり、会社側からの退職の承認の意思が示される前に撤回が行われたことから、会社側はこの撤回に応じなければなりません。
もし、直ぐに承諾の意思を表明したのであれば、従業員からの撤回に応じる必要はなくなります。
また、退職の意思表明が錯誤から来ている場合は民法95条によって効力が失われ、強迫や詐欺による場合は民法96条によって取消が可能です。例を挙げると、実際の懲戒事由がないのにそのような事由があると信じ込んで出した退職願は、錯誤によるものであることから効力を無くします。更に、会社側から懲戒解雇の処分が可能であることを従業員に言って退職願を提出させたような時は、強迫に当てはまることから従業員から取消ができます。