多くの会社で、懲戒処分の方法として従業員に始末書を要求します。その内容は過失に関する謝罪の言葉、不始末の内容、そしてこれからの対策などになります。これを従業員から提出してもらって、一回の懲戒処分が終わることになりますが、対象従業員が懲戒の処分に不服しているとき、始末書の提出を拒否するケースがあります。
始末書の中に入る謝罪や反省を表現するということは、個人の良心に従うものです。個人の意思の事由を尊重する時点から、強制することは不可能です。このことから、従業員が始末書の提出を拒否しても、これに対して制裁することはできません。
過去の裁判例(甲山福祉センター事件 1983年3月17日 神戸地裁)で、「文書提出自体、本人の意思にもとづくほかない行為であって、個人の意思を尊重する現行法の精神からいって、これをその不提出に対して懲戒処分を加えることにより、強制することはできない」となっています。なお、この裁判例では始末書の提出に関して「反省を促すことであり、業務命令とは言えない」ということから、始末書の提出を事由として懲戒処分することは不可能であるとなっています。
しかし、このような考え方が一概として取られるわけではなく、個別の事情が考慮されます。今回の事例では、事実の顛末を「報告書」にまとめて提出させるようにすると、業務命令として扱うことが可能です。そして、この業務命令を拒否した場合は、就業規則によって懲戒処分をすることができます。