この事例のような解雇の形を、「変更解約告知」といいます。これは労働者側からすれば、解雇されるか労働条件の社則からの変更に同意するかのどちらかを選ばなければならないので、解雇の脅しのもとで新たな労働条約を迫られるということとなります。
この形は、もともとドイツの法律上の「変更解約告知」からのもので、日本に取り入れられたのはスカンジナビア航空事件の時からです。当時は、下記の事項を挙げて、労働条約の変更に同意しない従業員の解雇が可能となっていました。
1.労働条約変更が求められていること
2.変更の必要性が労働者がもらう不利益を上回って、労働条約の変更を同伴する新契約に同意しない労働者の解雇や仕方ないこと
3.解雇の回避努力がされていること
しかし、現在の日本ではこの形に対する法律上の定めはなく、過去の裁判例でもこれを受け入れることは慎重でなければならないこととなっています。
この法理を認めないと、一般的な解雇権乱用の法理の枠組みから湯更生の判断を行います。もし、変更する労働契約の内容が労働条件を引き下げるようなことである場合、その引き下げを目的にする整理解雇の合理性が問われます。ここからは整理解雇の時と同様に、整理解雇の4要件を考慮し、社会通念性と客観的な合理性があると認められない限り、無効になります。
全員の解雇を行う前に、解雇回避の努力をすることが必要となります。
それに、労働条件の引き下げには、社則から一方的に行うことは出来ず、労働者側との合意が必要です。就業規則の変更によるものは、その就業規則の変更が妥当であるか、変更されてからの就業規則を従業員にきちんと知らせたことの二つの条件を満足させなければ、認められません。
*労働契約法 第8条
労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
第9条
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合はこの限りでない。
第10条
就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。