健康保険は、医師国民健康保険・歯科医師健康保険に加入しているケースが多く、この方が有利な場合が多いでしょう。そのため、診療所としては年金事務所に健康保険適用除外申請をおこない、厚生年金のみに加入することになります。この場合は、健康保険は医師国民健康保険組合・歯科医師健康保険に、厚生年金は年金事務所に申請手続をします。厚生年金の対象者は、常勤者および勤務時間が常勤者の4分の3以上のパートタイマーです(短時間パートタイマーは厚生年金の対象から外れます)。
労働保険はそのままの形で法人に引き継がれますが、法人化したのち時間を置かずに退職した場合でも、個人診療所の勤務期間を合算した雇用保険が受給されます(変更の届出手続は必要)。院長先生や奥様が役員である場合は、原則的に雇用保険および労災保険の対象者ではありません。なお、平成8年に会計検査院が厚生年金未加入の医療法人や、代表者が未加入の法人などの検査をおこない、未加入が発覚した法人については検査月の1日付けで加入手続をおこなうことになりました。その後、医師国保の加入に際して、厚生年金の加入を確認することが増えているので注意しましょう。
法人設立によるデメリットとしては、社会保険の強制加入によって義務付けられる社会保険料が増えることが考えられます。個人病院の場合は社会保険の加入が任意であるため、働く人が自分で国民健康保険と国民年金保険料を負担するケースが多いですが、法人設立後は今まで各自が負担していた社会保険料の半分を法人が支払うことになります。例えば、院長の事業所得1,700万円、青色専従者給与の妻の所得600万円、勤務医を含む従業員の給与1,500万円の診療所において、個人で運営している場合と医療法人化した場合の保険料の違いは以下のようになります。
(1) 個人病院
国民健康保険料+介護保険料=60万円(市によって上限は異なります)
国民年金保険料15,020円×2人分×12ヶ月分=360,480円
合計 約96万円
(2) 医療法人
従業員分=163万円
院長と妻の分=171万円(個人負担額の171万円は別途、理事報酬から差し引きます)
法人負担額合計=334万円
法人化することで社会保険料の法人負担額が増え、その分経費が増えるので税金が減ります。ただし、減少する税額と増加する社会保険料の法人負担額を比べると、社会保険料の方が多くなります。医療法人設立の際には、社会保険料の負担が大きくなることに注意しましょう。