労務管理に関わる税務調査のポイント

過大退職金の判断について教えてください

U社は産業用機械を製造する老舗同族会社であり設立して40年以上、取引先から高い評価を得ています。今回、社長の交代にともなって非常勤役員も退任し、新体制でスタートをきりましたが、U社の代表者(創業者)と非常勤役員の退職にともない代表者には3億円、非常勤役員には7,000万円の退職金を支払っています。そこで、非常勤役員に支払った金額が過大退職金に当たるのではないかと問題になっています。
前代表取締役社長の退任と同時に非常勤取締役も退任、前代表者は創業者であり勤続年数は40数年、非常勤役員も設立以来代表者を補佐して要所、要所で重要な働きをしてきました。退職金額の計算方法ですが、「最終月額報酬×勤続年数×功績倍率」という通常の計算方法に沿って行なったところ、前代表者は3億円、前非常勤取締役は7,000万となりました。その結果、いわゆる功績倍率は代表者が2.2で、非常勤役員が3.5となっていることが判明しました。代表者は産業用機械を製造する事業をたった一人で始め、40年をかけて毎期数億円の課税所得を計上する会社に育ててきました。退職金の3億円は功績倍率から考えて問題はありません。しかし、代表者への支払額が3億円で功績倍率が2.2に対し、非常勤役員への支給額が7,000万円で功績倍率が3.5という状況はおかしくないでしょうか。非常勤役員の退職金のうち、代表者の功績倍率を超える部分の金額は不相当に高額と考えられます。また、功績倍率という考え方について法人税法にはどこにも書いてありませんが、退職金の金額が不相当に高額かどうか裁判になった事例では、かなりの判例で功績倍率が過大退職金の過大額部分を算出するための基準になっています。
そこで、現在の取締役メンバーで再度役員会を開催して、前代表者への支給額3億円の適否も含めて会社なりに適正と思われる退職金額が再検討されました。すると、他社の解例や物の本では、代表取締役の功績倍率は平均的に3.0程度だとわかりました。それぞれ会社の実情に応じて、この3.0を挟んだ前後の数値に定められているようです。結果として、おおむね2.5から3.5までの幅があると考えてもいいのではないでしょうか。同業他社に類を見ない現在のような売上規模、所得水準にまで育て上げた前代表者の功績は、3.5程度まで認められてもよいのではないでしょうか。
しかし、仮に3.5で退職金の額を計算すると支給金額が巨額となり、今度は赤字決算となってしまいます。これはこれで、実情、実態にそぐわないため、銀行関係や会社の内部の実情等を総合的に検討しなければなりません。そこで2億円に収めたようですが、前代表者に対する支給金額は3億円で再度、役員会で認められました。その結果、功績倍率は最終的に2.2となったのです。前代表者に対する功績倍率を仮に3.5とすれば、前非常勤役員の会社に対する特別な功績を勘案した場合、功績倍率はそれより低めの3.0程度と判断できます。3.5の功績倍率は高すぎたのかもしれませんが、3.0で再計算すると適正退職金額は6,000万円となり、1,000万円が過大額と指摘されてもやむをえません。これらより取締役会が意思決定をし、過大1,000万円について修正申告に応じました
退職金とは、退職を基因として支払われる一切の給与のことをいい、退職給与規定に基づくものであるかどうかを問わず、またその支出の名義のいかんを問いません。さらに、法の定めるところにより、不相当に高額な部分の金額は過大退職給与として損金の額に算入されないこととなっています(法人税法34条2項、法人税法施行令70条)。今回の調査は、当局がそれぞれの功績倍率に着目し、同一法人内で代表者と非常勤役員の功練倍率が逆転していると指摘し、非常勤役員の功績倍率を代表者の功績倍率以下にするよう求められた事案です。その結果、非常勤役員の退職給与の額に不相当に高額な部分の金額が発生することとなり、修正申告に応じたのでした。しかし、法の定めるところによれば、「当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額が過大となる」とされています。したがって、功績倍率は不相当に高額かどうかの判断基準としては、直接的には関係してこないとも考えられます。しかし、判例などで用いられている概念でもあり、あえて異議申し立て等で争うことなく当局の指導に従い修正申告をしました。以下の法令を参照してください。
(役員給与の損金不算入)
第三十四条 省略
2 内国法人がその役員に対して支給する給与(前項又は次項の規定の適用があるものを除く。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
 
(過大な役員給与の額)
第七十条 法第三十四条第二項(役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める金額は、次に掲げる金額の合計額とする。
一 省略
二 内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与の額が、当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額
三 省略

関連記事

  1. 社員教育費用の会社負担金は従業員への利益供与ですか?
2024年4月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

おすすめ記事

マイナンバーの利用目的の特定の事例としての源泉徴収票作成事務に、給与支払報告書や退職所得の特別徴収票も含まれますか?

マイナンバー法で、マイナンバーを用いることができる事務は限定的に規定されていますが、統一的な書式や次…

従業員が他の法人に出向又は転籍によって異動した場合、給与所得の源泉徴収票の提出につき、いずれの法人が個人番号関係事務実施者に当たりますか?

マイナンバーを記した源泉徴収票の提出義務者が個人番号関係事務実施者に当たります。源泉徴収票の提出義務…

入社時・源泉徴収票などの作成時・退職時の社員のマイナンバー、支払調書作成時の社員以外のマイナンバーを、それぞれどのように取り扱えばいいでしょうか?

入社時・源泉徴収票などの作成時・退職時の社員のマイナンバー、支払調書作成時の社員以外のマイナンバーに…

Q.年末調整の対象とされる給与について教えてください。

A.年末調整は、その年の最後に給与を払うときまでに「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している一定…

PAGE TOP